必要なのは「中ぶらりん」を持ちこたえる力

2021-11-26

必要なのは「中ぶらりん」を持ちこたえる力作家で精神科医の帚木蓬生さんは、世の中に立ちこめる不安な空気に押しつぶされないためにも、ある「能力」を身につけることの重要性について、婦人公論2021年11月24日号でこう述べています。

「コロナ禍による生活の変化は、私のクリニックを訪れる患者さんの心や体にもさまざまな影響をおよぼしました。
孤独や不安を訴えたり、気分が落ち込んでやる気が出なくなる、いわゆる「抑うつ状態」に陥ったりする人が増えたと感じます。
特に中高年の女性たちは、移動を制限されたことによって、介護施設にいる親と面会できなかったり、子どもや孫、友人と会う機会を失ったりして、「寂しい」と口にする人が少なくありません。
抱えている思いを話す相手がいなければ、不安は消えないのです。

こうした出口の見えない非常事態のときこそ、医師として「ネガティブ・ケイパビリティ」という考え方を、みなさんにぜひ知ってほしいと考えています。
ネガティブ・ケイパビリティとは、「どうにも答えの出ない、対処できない事態に耐える力」という意昧です。
解決できない事柄の理由を性急に求めず、‶中ぶらりんの状態を持ちこたえる″という考え方です。
本来「ケイパビリティ」とは、才能や解決処理能力などポジティブなものを指す言葉ですが、この場合はまったく逆で、答えを出さないことに重きを置いています。

人間の脳はもともと「知りたい、わかりたい」という性質を持っているため、わけのわからないものに直面すると脳が苛立ち、とりあえず意昧づけをして理解しようとするのです。
その「わかりたい」という欲望を制御しながら、結論が出ないまま持ちこたえる力こそが、ネガティブ・ケイパビリティなのです。


必要なのは「中ぶらりん」を持ちこたえる力私はネガティブ・ケイパビリティの考え方とともに大切にしていることがあります。それは3つの「薬」です。
いつもあなたのことを見ているけれど、こんなに問題を抱えながら本当によくやっていますね、という「目薬」。状況を見守り、必要に応じてサポートしていく方法です。
2つめは、人間の小さな脳みそでいくら考えても答えが出ないことがある、それは日々が解決してくれるという「日薬」。
時間をかけて何とかしていくうちに、何とかなります。3つめは、「がんばって」とは決して言わずに、「めげずに、よくここまで米ましたね」と声をかける「口薬」です。
こう言うと患者さんは安心するみたいですね。

さらに、日々の暮らしを忙しくすることをすすめます。一通り新聞を読み、日記をつけ、町内会の役職を引き受けるなど、忙しくして暇を作らないことは大事です。
悩む時間がないから、忙しい人は病気を口にしません。
悩みや不安があっても焦らず、悩めばいい。ハラハラ、ドキドキの状態もまた楽しんでみてはどうでしょうか。
大局に任せれば、自然と出口が見えてきます」。

配信 Willmake143

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